つづきです。
3.文体:できるだけ3人称の表現を行う
3人称表現,つまり1人称の「わたしは……」「わたしたちは……」などを使わずに表現するということであります。
どうしても使わざるを得ない場合に「著者は……」などと書く。
ごらんのように,3人称表現を行うために,受動態・受身形の表現を使うこともよくある。
目的を持っているのは人で,このレポートでは著者(たち)なんだが,それはわかりきっている話なので,第2段落の目的の記述については,「わたし(たち)……」を排除して書いている。
研究対象 object を客観的に objective 記述するということです。心の話は,どこまでも1人称の主観 subject が主観的に subjective 表現できてしまうため,歯止めがないと,単なる「下衆の勘繰り」になる。文体の問題だけではないけど,心理学は,どこかで客観性を担保しておく必要があるんだ。
4.事実を書く,事実に基づいて書く
レポート・論文は事実を書くことが重要だ。方法のところ,この実験参加者と有効回答数については,ボクもあまり書きたくなかった。……この有効回答率では,データとして,信頼に足るものではないからだ。これだけで,研究としてダメダメという感じだろう。……でも,事実は事実として受け止める,というのが科学なんだよね。データの捏造はもってのほかだけど,それ以上に,研究の計画・データ収集・データ分析・結果の解釈……などで心理学の研究は,ここ10年ほど批判にさらされ続けている。(このレポートの分析のT検定も,実は分析としては不適切なのではないか,とも批判されている。)
下半分の考察部分が,今回のレポート課題になってくるわけだが,オンラインの授業では「考察は感想ではない」と言った。
で,そうなんだけど,感想を書かない場合に学生さんがよく陥りがちな誤り。「まとめ」を書いてしまうこと。「今回の研究では,理想自己が現実自己よりも外向的であったが,より一般的にはたいして違いはないものと思われる。」みたいなことを書いてしまう。
結果の表や,分析の結果を見ないで,関連づけずに単独で書いてしまうのが誤り。あくまで考察は,今回の実験結果を考察するものであり,一般論を書くところでもないのだ。結果の数値を見よう。統計的にはどちらが大きかったのかを見よう。その差が何から生まれてきたのかを,考えよう。
あくまで事実に即して,なぜその事実になったのかを考える,のが考察なのであります。
「人それぞれ」とか書いて逃げるのもなしだよ。そんなの,心理学では,当たり前なんだわ。それぞれの中身がどう違うかを,それぞれ具体的に記述・説明していくのが心理学なんだから,「人それぞれ」を使って変なまとめ方をしてしまうのもやめよう。
実験参加者自身の結果を考察する際にも,プロフィールを例のように書いて……逆転項目を得点化して,2点が外向的,0点が内向的というように得点化した後の点数だよ……不一致の項目,一致の項目を見いだすのが重要だ。
まずは書いて提出……だね。
左上を留める,と何度言っても,右側を留める学生がいたりする。文字横書きの本の綴じ方と置き方を,よく見ておいてほしい。
留める箇所も紙の端に近い方がよい。(このレポートでは違うけど……ビジネス系の書類だと,後でパンチで穴をあけてファイルするのね。ファイルしたときに,留める場所が紙の中心に近いと,留めた場所が邪魔で,ファイルしたまんまで開けなくなるのよ。)
ときどき……外向性-内向性の性格テストよりも,提出された課題のありようで性格を測定できるのではないか……と思うことがある。
それでは。本日の授業はおしまい。
ありがとうございました。
<教科書>
木下冨雄・上里一郎・中谷和夫・難波精一郎・辻敬一郎 (1975 / 2018). 教材心理学[第4版] ナカニシヤ出版